『迫りくる破局 蘇らせよ マルクスの魂を』

 拙著『迫りくる破局 蘇らせよ マルクスの魂を』(著者発行、2016年3月刊)を出版しました。書泉グランデ(東京・神田神保町)、模索舎(東京都新宿区新宿2-4-9)、ナカムラヤ(群馬県太田市本町14-27)で売っています。読んでください。
 
 はじめに

 パリ同時多発テロがはらんでいるものは何か。
 各国の権力者たちは、自国内でのテロの勃発が自政権を揺るがしかねないことにおびえて、民衆に、「イスラム国」(IS)への怖れと憎しみと敵愾心をあおりたてている。アメリカ・フランス・イギリス・ロシアなどの権力者たちは、「テロ勢力撲滅の戦争」を叫び自国軍に命令して空爆をおこない、無残にも、アラブの民衆を無差別に殺戮している。日本の権力者は、この空爆を支持し、金を出し、自衛隊という名の国軍を派遣する機会を虎視眈々と狙っている。われわれは、このことを凝視しなければならない。
 欧米の諸国家は、原油などを得るために、中東・アラブ地域に侵略し、民衆を蹂躙してきた、という過去をもつのである。また、これらの国の権力者は、イラクは核兵器をもっている、とうそをついて、フセイン政権を軍事的に倒したのである。いまもまた、これらの国家は、中東での種々の権益を獲得することを狙ってうごめいているのである。これらの国々の権力者は、どす黒い現在の腹のうちを隠し、むごたらしい罪業の数々をかさねた過去に頬かむりして、一切の責任を「イスラム国」に転嫁しているのである。これは、侵略者の悪辣なやり口ではないだろうか。
 また、各国の権力者が「テロ勢力「イスラム国」の撲滅」を叫びたて、その方向に民衆の足並みをそろえさせようとするのは、失業や貧困や過酷な労働に苦しむ労働者・勤労者たちの不満と反発と反抗の矛先が、自分と独占資本家にむかうのをそらせ、外の敵である「イスラム国」にむかわせるものではないだろうか。これは、明らかに、排外主義なのである。独占資本家による労働者・勤労者たちの搾取と収奪という国内の階級的矛盾をおおい隠し、これを外なる敵との対決に転化しすりかえるものである。かつて戦前に、日本の軍国主義者たちが「鬼畜米英」「大東亜戦争」と叫びたてたことを思い起こそうではないか。「テロとの戦い」「テロ勢力撲滅戦争」の呼号は、これの今日版なのである。「テロ勢力の撲滅」は、各国の権力者たちが、民衆をみずからの支配する国家のもとに統合するための排外主義的イデオロギーなのである。
 中国経済の破綻と原油価格の下落、これらにもとづく株価の暴落というかたちであらわれているところの、バブルの雪崩うつ崩壊、この経済危機にあえぐ各国の権力者と独占資本家は、さまざまな色合いの排外主義を鼓吹する声をますます高め、自分たちの諸行動にそのイデオロギーを貫徹しているのである。
 だが、この動きに反撃すべき労働者・勤労者たちの現状は危機的である。プロレタリア階級闘争は壊滅している、といわなければならない。プロレタリアートの立場にたってたたかう、というこの闘いが強固に存在しないがゆえにこそ、ヨーロッパの移民の若者の一定の部分は、「イスラム国」に魅かれるのだ、とさえいえる。イスラム原理主義をテロル的・軍事的手段をもって実現することを主張し行動する「イスラム国」が台頭しているのもまた、アラブ・中東諸国においてプロレタリアートの立場にたった闘いがまったく現存在しないがゆえなのである。
 プロレタリア階級闘争が壊滅したのは、これを指導してきたスターリン主義者の党が闘いを歪曲し裏切ってきたからである。そして、ソ連や中国のスターリン主義党=国家官僚であった者たちがみずから資本家的官僚あるいは官僚資本家になり果てたからである。
 現代世界の危機に、迫りくる破局にたちむかう実践=認識主体としてのわれわれは、破産したスターリン主義――スターリンによって歪曲されたマルクス主義――をその根底からのりこえていかなければならない。われわれは、マルクスの魂を〈いま・ここ〉に蘇らせわがものとし、二一世紀現代世界に貫徹するのでなければならない。現下の諸攻撃をうちやぶるために、プロレタリア・インターナショナリズムの立場にたってたたかおう。万国の労働者の団結をつくりだすためにたたかいぬこうではないか。
                                      二〇一六年一月一九日
 

 『迫りくる破局 蘇らせよ マルクスの魂を』目次

 はじめに

Ⅰ マルクスの魂をわがものとしプロレタリア階級闘争の再構築を!

〔1〕 パリ同時多発テロの根源をうちやぶれ!

  一 今日の根源にあるスターリン主義の破産
  二 アラブの問題の歴史的根拠
  三 帝国主義国内の階級闘争の危機
  四 「テロ壊滅」戦争への民衆の統合に加担する諸言辞
   傍観者的評論
   「反テロ」の排外主義者に転落した山内昌之
   常識人の池上彰と「日本の誇り」防衛主義者となった佐藤優

〔2〕 二〇一六年冒頭に現出した世界経済危機

  一 この年は激動をもってはじまった!
   サウジアラビアによるイランとの国交の断絶
   世界同時株安と原油価格の下落
  二 資本主義国となった中国の破綻とそののりきり策動
   のしかかる過剰設備と日本の「リストラ」の模倣
   世界をしめつける中国鉄鋼業の設備過剰
   レーガノミクスの模倣を企てた習近平指導部
  三 「中国・原油」バブルの崩壊と「反テロ」の排外主義の台頭
   生産設備の過剰な建設を基礎としたバブルとその崩壊
   「反テロ」の排外主義の軍事的貫徹

Ⅱ バブルの分析に適用すべきマルクス「擬制資本」論

〔1〕 マルクスの「擬制資本」規定を援用した現代資本主義解釈
     ――鎌倉孝夫の「〝擬制〟経済」論――

  一 「擬制」という言葉におもねるその内面
   破産の自覚の欠如
   「労働力の商品化の無理」の無理解
  二 ゆがめてのアテハメ あるいは アテハメゆえの歪曲
   証券の組成と証券が資本とみなされることとの等置
   金本位制下、を典型と措く解釈
   日本の財政赤字を無視したドル基軸通貨異常論
  三 方法論的省察を回避しての、宇野弘蔵の方法の否定
   規定的動機
   暗黙の絶対的前提
   「株式資本」概念にふくめられているもの

〔2〕 宇野弘蔵によるマルクス「資本の商品化」規定の理念化

  一 「資金の商品化」規定の必要性
   円環をなす体系からの要請
   宇野の直接的疑問
   マルクスの方法の否定
   普通に売買される資本の探索
  二 理念としての資本
   商品に変貌する主体をなす資本
   二重の存在をもつ資本

〔3〕 マルクス『資本論』のヘーゲルの世界への改竄
     ――鎌倉孝夫の「資本理念の現実化=擬制資本」論――

  一 私の雑感
  二 唯物論的思惟の欠如
   分析する対象のない理論体系
   鏡に映すモノのとりかえ
   人間なしの理念
  三 資本理念の形成過程という解釈論
  四 理念からの天下りの回避策
   株式配当の資本利潤へのすりかえ
   実体論の欠如
   マルクス「物化」論を足蹴にした鎌倉
 

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