パリ同時多発テロの根源をうちやぶれ!

 Ⅰ マルクスの魂をわがものとしプロレタリア階級闘争の再構築を!

 

 〔1〕 パリ同時多発テロの根源をうちやぶれ!

 一 今日の根底にあるスターリン主義の破産

 二〇一五年一一月一三日の夜、パリで同時多発テロが発生した。一三〇人もの市民が死亡し、負傷者は四〇〇人にのぼった。
 シリアからイラクにかけての一部地域を支配するイスラム原理主義組織「イスラム国」(IS=イスラミック・ステイト)は、自分たちがやった、と表明した。このテロは、フランス軍が・アメリカを中心とする有志連合の一員としておこなっている・彼らの支配地域への空爆、この攻撃に報復するために、彼らが、独自に訓練したフランス国籍の若者らを実体的基礎にして遂行したものにほかならない。
 このことから次のことがうかびあがる。すなわち、この陰惨なテロ行為は、全世界的な規模においてプロレタリア階級闘争が壊滅していることのゆえにうみだされたものだ、ということが、それである。
 これは、二つの意味においてそういえる。
 第一。アメリカ・イギリス・フランスなどの帝国主義権力者どもによる・アラブへの・新植民地主義政策の軍事的貫徹、これへのアラブ民衆の闘いが、イスラム原理主義のテロル的・軍事的貫徹の形態を最先端とするものにおしゆがめられているのである。このことの根源は、スターリン主義――スターリンによって歪曲されたマルクス主義――に、このスターリン主義の破産にある。
 かつて、もう何十年も前には、アラブの地域には、ナセルに象徴されるような民族主義諸国家がうちたてられていた。これらの諸国家は、ソ連からの経済的・軍事的援助のもとで、自国の非資本主義的発展をめざす、という政策をとった。けれども、こうした諸政策とそれを採用した諸国家は破綻した。破綻したのは、ソ連国家の後進国政策およびソ連共産党の後進国革命路線、すなわちソ連の経済的・軍事的援助のもとでの後進国の非資本主義的発展という路線そのものが、後進国のプロレタリア・農民・その他の勤労大衆の利害を裏切るものであったからである。その路線は、新植民地主義政策の貫徹をねらう帝国主義諸国、その国々のプロレタリアートと団結して、プロレタリアートの立場にたって勤労諸階級・諸階層の闘いをつくりあげるのではなく、彼らを、ソ連紐付きの権力者に、民族ブルジョアジーの利害を体現する権力者に屈従させるものであったからである。
 ソ連の崩壊とともに、そうした展望も、その物質的前提も、すべて潰え去った。
 展望をなくしたアラブの民衆の内面にわきおこってきたのが、ソ連の政策の貫徹によっては充たされることのない彼らの心を、その奥底においてささえてきた・神アラーへの帰依なのである。貧しい者がその信者の多くを占めたイスラム・シーア派がイランにおいて権力を掌握したあとになって、スンニ派のイスラム原理主義の潮流が台頭してきた根拠は、ここにある。
 唯一神アラーの法(シャリーア)のもとにカリフ(預言者ムハンマドの後継者)が指導する単一のイスラム帝国を建設する、というこのイスラム原理主義のイデオロギーと、それを信じる若者たちを利用し、無差別テロの形態を導入したのが、アメリカ帝国主義権力者ブッシュによって壊滅させられたイラク・フセイン政権、その残党をなすかつての支配者たちなのである。カリフ帝国とは、かつての支配者たちが、アラブの地域にみずからの支配する国家をうちたて維持するために活用しているイデオロギーなのである。「イスラム国」のテロの凶暴さは、右のことをイデオロギー的および実体的根拠とするのであり、イスラムという宗教そのものにもとづくのでは決してない。
 まさに、帝国主義諸国権力者による新植民地主義政策の軍事的貫徹を粉砕するために、プロレタリア・インターナショナリズムの立場にたって、勤労諸階級・諸階層の階級的に団結した闘いをつくりだす、という展望の欠如、これこそが「イスラム国」の跳梁をゆるしている根拠をなすのである。破産したスターリン主義をその根底からのりこえていくという自覚をアラブの民衆にうながしえていないこと、わが日本反スターリン主義運動がそのような地平を切り拓きえていないことが、根本問題をなすのである。
 第二。テロの実行者の多くは、フランスやベルギーで生まれ育ち生活していた移民の子であった。ヨーロッパ周辺の各地からの移民を両親とする若者たちは、EU(欧州連合)諸国の経済危機のもとで就職口はなく、イスラム教徒というだけで白眼視され、移民の子として差別されてきた。失業の恐怖にさいなまれている伝来の当地在住の労働者たちは、資本家にたちむかうのではなく、自分たちの境遇を移民の流入のせいにし、彼らに敵愾心をもった。極右のルペン父娘がそれをあおった。移民の子らにとって、ヨーロッパの地には自分の居場所はなかった。彼らのなかの一定の者たちには、武器をもって世界に叛逆する「イスラム国」がまぶしく映った。その工作員の甘い言葉にのってシリアにわたる若者たちが次々とあらわれた。――これが、ヨーロッパ出自のテロ実行者が生みだされたリアルな姿なのである。
 このことの根拠は何か。それは、ヨーロッパ各国におけるプロレタリア階級闘争の壊滅なのである。この壊滅の帰結こそが、労働者たちが即自的にしろ労働者としての自覚と連帯感をもつことなしに、伝来の住民は移民を、移民は伝来の住民を憎む、という事態、痛苦にもいま生みだされているこの事態なのである。
 かつては、フランスにおいて、イタリアにおいて、共産党=スターリン主義者の党は、強大な力を誇った。彼らは、労働組合が団体交渉をもって資本家の経営権に介入する、というかたちでたたかった。だが、資本主義をその内側から構造改革する、というその指針は、プロレタリアをプロレタリアートとして階級的に組織化していくことを放棄するものであり、マルクス主義を歪曲したものでしかなかった。サッチャー・レーガン・中曽根らが牽引した新自由主義の潮流、ヨーロッパ大陸をも席巻したこの潮流に、スターリン主義者および社会民主主義者が指導していた労働運動は敗北し、彼らのそれぞれがその指導部を牛耳っていた労働組合は破壊された。ソ連の崩壊とともに、スターリン主義者たちは、市場経済=資本主義を賛美する者へと転向をとげ、その党は崩れ去った。
 これが、いま生みだされている事態の根源をなすのである。
 ヨーロッパ各国において、労働者たちが、破産したスターリン主義を、運動上においても、イデオロギー的にも、組織的にものりこえ、プロレタリアートを階級的に組織化していく反スターリン主義の前衛党を創造していくことが、急務なのである。彼らにこれをうながしていくことが、わが日本反スターリン主義運動の責務なのである。
                                    二〇一五年一二月二一日
 (つづく――この論文を、拙著『迫りくる破局 蘇らせよ マルクスの魂を』に収録したので、続きはそれを読んでください。)