OPEC総会決定をうけて原油価格さらに下落――シェール・バブルの破裂へ

 石油輸出国機構(OPEC)は、十一月二十七日に開いた総会において、日量三〇〇〇万バレルとする現行の生産枠を据え置くこと、つまり減産しないことを決定した。これは、ベネズエラやイランなどの財政力の弱い加盟国がもとめていた減産を、サウジアラビアをはじめとする財政力のある湾岸諸国がしりぞけ、自分たちの目論見を貫徹したものである、といえる。すなわち、原油価格の上昇をかちとるためには、下落している現在の原油価格の水準をもう一段下げ、アメリカでのシェールオイルの生産を縮小においこむ必要がある、これを実現するまでのあいだは我慢する、というみずからの判断を、サウジアラビアの権力者は他の加盟国の権力者におしつけたのだ、ということである。
 この決定をうけて、ロンドン市場では、北海ブレント原油先物が、一時二〇一〇年七月以来の安値一バレル=七一・二五ドル(終値は前日比五・一七ドル安の七二・五八ドル)にまで下落した。また当日は休日であり休業のニューヨーク市場では時間外の電子取引で、アメリカ原油WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物が、二〇一〇年五月以来の安値となる一バレル=六七・七五ドル(前日比五・九四ドル安)をつけた。
 二十八日には、北海ブレント先物は、一時一バレル=六九ドル台に下落した。WTI先物は前営業日より七・五四ドル安い一バレル=六六・一五ドルで取引を終えた。これは終値としては、二〇〇九年下旬以来の安値である。時間外の電子取引では、一時一バレル=六五・六九ドルにまで落ちこんだ。日曜日の三十日には、時間外取引で、WTI先物は一バレル=六五ドルを割りこんだ。
 欧米諸国によるロシアへの経済制裁のゆえに下落しつづけていたルーブルは、二十八日には、一時一ドル=五〇ルーブル台をつけ、最安値を更新した。これは、一ドル=三三ルーブル台であった年初からの大幅な下落である。ロシア政府が組んだ二〇一五年度の連邦予算では、その収入の五一%を石油と天然ガスに課す税が占めている。このばあいに原油価格の水準は、北海ブレント原油先物価格で一バレル当たり九六ドルと設定されている。現下の原油価格の急落のもとでは、歳入不足は必至である。ルーブルの最安値の更新は、財政破綻をはらんだロシアの経済的危機を要因とする。この日、大統領プーチンは、南部のソチにおいて、エネルギー相ノバクや国営石油企業ロスネフチのトップらを従えて、フランスの石油独占体トタルの幹部らと会談し、「原油価格の下落は避けることのできない市場の反応だ。ロシアにとって特別なことはなく、受け入れられる」と、強がって見せた。それは「冬になれば市場はバランスのとれたものになる」という、きわめて甘いものでしかない。
 ベネズエラのマドゥロ大統領は二十八日に、国家財政破綻の危機を逼迫させている原油価格の下落にかんして「むだで不必要な支出をやめる好機ととらえている」とのべて、大統領や閣僚やそして国営企業幹部らの給与カットなどの措置をとり、国家財政支出の削減にとりくむことを表明した。
 原油を減産しない、とOPECが決定したことの波紋は、深く広くひろがっている。
 こうした状況のもとで、OPEC総会の決定にかんして、サウジアラビアの狙いはシェールオイル潰しにある、というような報道がなされつつも、アメリカでのシェールオイルの生産の採算ラインにかんする解説がピタッと影をひそめてしまった。これは、もはや採算割れとなっていることが確実であるからであり、そのことを解説者たちが見たくないからである、とおもわれる。この総会をまえにしては、シェールオイルの採算ラインが一バレル=八〇ドルというのはすでに古くさいものとなっているのであって、技術革新のゆえにそれは一バレル=六〇ドル台に、あるいは六〇ドルを下まわるまでに低下している、とか、アメリカのバーンスタイン・リサーチは、WTI先物価格が一バレル=八〇ドルを切る水準にまで下落したばあいには、アメリカのシェールオイル生産の三分の一が採算割れとなるとする試算結果を公表したが、国際エネルギー機関(IEA)の発表によれば、その水準で採算割れとなるのは四%にすぎない、とかというように、――現下の原油価格の下落は、敵対国であるロシアとイランに打撃をあたえるために、サウジアラビアとアメリカが手を組んでおこなっているものである、という陰謀説とともに、――投資煽動家たちが喧伝していたのであった。ところが、こうした解説からしても、WTIの先物価格が一バレル=六〇ドル台に下落してしまった現在では、過半の、あるいは半数近い企業が採算割れとなっていることになるのである。彼らが採算ラインにかんして口をつぐんだ理由はここにある。
 また技術革新がなされ生産性が向上している証拠として、一坑井あたりのオイルの生産量が増大しているという統計数字がだされていたのであるが、一つの井戸を掘るために必要となる費用がどうなっているのかは明らかにされていないのである。縦に掘ったうえで横に掘る、この水平掘削の距離を長くし、水圧破砕を何段階にもわたっておこなうならば、一坑井あたりの生産量は増えるのである。と同時に、それにともなって、かかる費用もふくれあがる、と推察されるのである。また、いまでは当初よりも困難な地層を掘ることになっているのかどうか、ということも分析されてはいないのである。これらのことがらについて分析するために必要な資料を、私はまだ探しだしえていない。ここでは、こうしたことがらを明らかにしなければならない、と言うにとどめる。
 けれどもまた、シェールオイル生産の採算割れということは、一つの目安にすぎないのであって、採算割れとなった坑井から順次生産を停止し次第に生産が縮小していく、というような過程が現実にうみだされるわけではない。シェールオイルの生産それ自体が投機の対象となっているのであり、投機資金によって実現されているのである。このことが考察されなければならない。シェールオイル生産の採算割れは、投機資金によってふくれあがったバブルの破裂という形態をとって現実化するのである。
 さきにWTI先物価格と表現したものは、原油が二〇一五年一月に受け渡しされるという期近物の価格であり、この価格は、原油を消費する諸企業の買い注文量および生産企業の生産量を基底としたうえでの投機資金の流入および流出によって決定されているのである。ところで、一方では、アメリカのシェールオイル生産の大半を担う独立系生産企業は、採掘継続に必要な資金を銀行などに融資してもらうためには、原油の販売価格が生産コストよりも高い水準にあることをしめさなければならず、そのために、受け渡しが三年先というような期先物の原油を売っているのであり、この期先物の価格が上昇してくれなければ破綻してしまうのである。けれども、彼ら生産業者たちが、期日の先の物・先の物というように売り争うことは、期先物の価格を押し下げる作用を果たす。しかも、自企業が生産することを予定して三年先に渡す原油を売ったかぎり、彼らは自企業が破産してしまうまでは、生産を削減することも停止することも決してできないのである。他方では、ヘッジファンドなどの投機資金をあやつる者たちは、期先物を買うと同時に期近物を売るとか、またその逆とかというかたちで、金融的操作をくりかえしているのであり、連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和策を停止するならば、彼らが操作する資金量そのものが減退すると同時に、彼らはみずからの利益のためには期先物を売り浴びせるという行動をもとるのである。彼らがこうした行動をとったときには、生産企業はたちまち倒産に追いこまれるとともに、銀行などの金融諸機関・投資家たちの手には、大量の不良債権が残されることになるのである。彼らはいまどのような行動をとっているのであろうか。
 また生産企業は、利益が出ていると見せかけることをとおして自企業の株価をつりあげてきたのであり、この株価のつり上げというかたちで種々の投資資金・投機資金を自企業によびこんできたのである。そして自企業の権益の一部を売却することによって、採掘のための資金を手にしてきたのである。当該企業の資金繰りがうまくいっていないと見てとるならば、投機家たちはその企業の株式の売りに転じるのであり、その株価は暴落し、売り抜けることができなかった者たちは、紙切れと化した株券を手にすることになる。
 十一月十四日のロイターは、次のことを報道している。
 「原油価格の落ち込みを受けたエネルギー株急落は、ヘッジファンド業界の中でも最も評価の高い一部のファンドにも大きな打撃を与えている。これらのファンドは第3・四半期にエネルギー株への投資を拡大したばかり。
 米証券取引委員会に提出された文書によると、ロバート・シトロン氏率いるディスカバリー・キャピタル・マネジメントは第3・四半期末、石油掘削企業ダイアモンドバック・エナジーへの出資比率を二〇%引き上げ一四〇万株とした。しかし同社株は第3・四半期に一六%下落した。
 ディスカバリーは石油・ガスの探査・生産を手掛けるシマレックス・エナジーに対しても出資比率を三七%引き上げたが、同社株は第3・四半期に一一%落ち込んだ。」
 「一方、ヘッジファンドの中には投資縮小で損失を回避したファンドもある。ブルー・ハーバーは油田掘削会社ネイバーズ・インダストリーズに対する出資比率を五九%引き下げ、同社株の二四%下落による打撃を免れた。」
「タイガー・アイ・キャピタルは油田サービス大手ハリバートンの株式を売却。同社株は第3・四半期に八%下落した。」
 今年の七―九月に、すでにアメリカのエネルギー諸企業の株式は急落しているのである。OPEC総会後の今日、原油価格の急落という諸条件のもとで利益を得る手を、ヘッジファンドはどしどし打っていくにちがいない。彼らのその行動はシェール・バブルを破裂させるものとなるのであり、彼らの多くを破滅させることになるのである。
 いま見てきたようなことがらを深くほりさげて分析することが必要なのである。
                                   二〇一四年一二月一日